新人が伸びる会計事務所は何をしているのか? ~OJTに“戦略”を持つという選択~

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)による新人教育は、会計事務所でも当たり前の光景となっています。しかし、「教える側の負担が大きすぎる」「思うように育たない」と感じたことはありませんか?
現場での指導だけに頼る育成は、属人化しやすく、思わぬ落とし穴も潜んでいます。

新人が力を発揮できるように育てるには、何が必要なのか。

本記事では、経営コンサルティングおよびDXコンサルティングの専門家・唐澤智哉先生に、OJTの課題と、担当者が身につけるべきスキル・意識についてお話を伺いました。

唐澤 智哉

唐澤経営コンサルティング事務所代表。中小企業診断士。大学卒業後、シンクタンクやコンサルティングファームにて、業務改革・ITコンサルティングに従事。その後大手IT企業にて、中堅中小企業向けコンサル事業の立ち上げから事業化までを推進。2024年に独立し、経営コンサルティング、企業研修等のサービスを提供している。全国50社を超える企業のコンサルティング、300社を超える企業の相談対応実績がある。

― OJTによる教育は会計事務所でも一般的ですが、どのような課題が考えられますか。

まず、OJT頼みの新人教育による「担当者の負担」が挙げられます。特に中小規模の事務所では、研修制度が十分に整っていないため、先輩所員が新人教育の中心になりがちです。しかしその所員も、繁忙期などは業務に追われてしまう。結果、教育に十分な時間を割けなくなり、育成が滞ってしまうのです。
そのほか、業務経験は豊富でも効果的な教育につながらない「育成ノウハウの不足」、指導者のタイプによっては新人が声をかけにくくなる「コミュニケーション不足」なども考えられます。

― それらの課題を踏まえ、OJT担当者向けの研修(以下OJT研修)ではどのような内容を扱うのでしょうか。

まずは、効果的に新人育成を行うための意識改革として、「育成責任の認識」からスタートします。OJTの意義やOJT担当者の役割を理解し、主体的に育成に取り組む意識を育むのです。
そのうえで、「指導スキルの習得」へ進みます。育成計画の立て方や具体的な教え方、効果的な指示・質問・フィードバックなど、対人コミュニケーションのスキルを体系的に学んでいきます。
加えて、「コミュニケーション能力の強化」も欠かせません。信頼関係を築くための傾聴力や、困ったときの対処法、効果的な伝え方を学びます。また、教育する側とされる側の年齢差が大きい場合などは、価値観の違いによる摩擦が生じがちです。そういった事態をどう避けるか、なども学んでいきます。

― 指導スキルというお話が出ましたが、OJT担当者が自己流で指導する場合、どのような問題が起こりうるのでしょうか。

自己流での指導の一番の問題は、教育の質が担当者によって左右されることです。担当者が適切に指導できないと、教える内容に抜けや漏れが生じたり、分かりにくくなったりして、結果として育成の効率や効果が低下してしまいます。

― 「新人は現場で学べばよい。あえてOJT研修をする必要はない」という見方もあります。

たしかに、現場での実践から学ぶことには大きな価値があります。ただし、それだけで十分とは言えないケースも多いのが実情です。
特に今は、人材を確保するのも、定着させるのも簡単ではない時代。そうした中で大切なのは、計画的かつ体系的なOJTです。その土台として、OJT担当者が育成の意識やスキルを身につけることは欠かせません。
「現場で学ばせれば十分」という姿勢が、新人の成長の妨げになってしまっている可能性があるのです。

― 教育方針を決定する立場として心がけるべきことはありますか。

新人は、「この職場で成長したい」「自分の夢を実現したい」といった前向きな気持ちで入社しています。
こうした意欲に応えるには、OJT担当者だけにとどまらず、経営層・管理職を含めた組織全体での育成意識が求められます。
新人育成は、単なる業務の引き継ぎではなく、将来の戦力確保や離職防止にもつながる重要な取り組みです。だからこそ、「どう教えるか」だけでなく、「どう育てるか」という視点が欠かせません。信頼関係を築き、成長しやすい環境を整えることは、職場文化への投資でもあります。

― 実際にOJT研修を受けた受講者に、どのような効果がみられましたか。

「これまでの指導が自己流だったと気づけた」「自分の教え方が相手の成長を妨げていたかもしれない」「感覚で教えていたことに不安を覚えた」といった声が多く寄せられています。
理論や具体的なテクニックを学ぶことで、OJTの精度が上がるのはもちろん、育成の偏りや、不適切な指導がなされるリスクも減らせます。また、コミュニケーションのあり方まで見直すきっかけになる点が、当事者のみでなく組織全体に好影響を及ぼすと高く評価されています。

― 担当者にOJT研修を実施したあとは、どのようなフォローアップが必要ですか?

最近では、実際の新人指導を想定したケーススタディやロールプレイなど、体験型の演習が重視される傾向があります。頭で考えるだけでなく、身体で感じることで初めて身につくものがあるからです。
また、異業種の人とも関わりながら行う演習では、自分では気づけなかった視点や工夫に出会えることも。こうした実践的な学びの機会が、OJT担当者の対応力や理解の定着につながっていると感じています。今後もこうした流れは、さらに広がっていくのではないでしょうか。

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