相続における遺族間のトラブルとその回避方法

相続では、遺族間のトラブルが発生することがあります。一旦相続トラブルが発生してしまうと、事態を収拾するのに長い時間がかかり、そのために、相続税の申告納税が間に合わなくなることもあります。
しかし、遺族間のトラブルには、生前に対策を講じておけば防げるものも多いです。
この記事では、遺族間のトラブルの例と、それを回避するための対策を紹介します。
目次
遺族間のトラブルは遺産総額に関係なく発生する

遺族間のトラブルは、遺産総額が多い家庭で発生するイメージがあるかもしれません。令和5年司法統計年報家事編によると、令和5年度中に全国の家庭裁判所が扱った遺産分割事件数は、13,872件でした。
遺産分割事件のうち認容・調停成立件数は7,297件です。
そして、それぞれの事件の遺産総額ごとに分類すると次のような結果になっています。
金額 | 認容・調停成立件数 |
1,000万円以下 | 2,475件 |
5,000万円以下 | 3,181件 |
1億円以下 | 866件 |
5億円以下 | 497件 |
5億円を超える | 33件 |
算定不能・不詳 | 245件 |
この統計データを見てると、遺産分割調停に持ち込まれるほどに遺族間のトラブルに発展するケースは、多額の遺産がある富裕層に限られるわけではなく、遺産総額が5000万円以下のごく普通の家庭でもありうるということが分かります。
相続時に遺族間のトラブルが発生する原因
被相続人の生前に相続トラブルを見越した対策を講じていない場合、相続時に遺族間のトラブルが発生しやすくなります。
例えば、次のような場合です。
- 遺産の内容が不明確である
- 遺言書が不公平な内容になっている
- 遺言書が見つからない
- 遺産が不動産しかない
- 不動産の評価方法で争いになる
- 相続人同士の仲が悪い
- 介護の負担に偏りがある
ひとつひとつ見ていきましょう。
遺産の内容が不明確である
相続手続きでは、被相続人の遺産のすべてが遺産分割や遺言書による相続、遺贈の対象となります。
しかし、被相続人の遺産がどれだけあるのか、また、どの財産が被相続人の遺産なのかはっきりしない場合は、被相続人の遺産の総額を確定することができません。
この場合、遺産分割協議や相続税の申告納税の手続きを進めることができなくなります。
また、被相続人と同居していた相続人が被相続人の遺産を管理しているような場合は、遺産を隠しているのではないかという疑いから、相続人同士のトラブルに発展することがあります。
こうした事態を防ぐためには、被相続人が元気なうちに、遺産を整理し、財産目録を作成しておくことが有効です。税理士として、被相続人の生前に相続に関する相談を受けた際は、まず、財産目録を作成することから提案しましょう。
遺言書が不公平な内容になっている
遺言書は、被相続人が自由に書くことができます。
ただその内容が、特定の相続人のみが遺産の大半を相続できる一方で、他の相続人の相続分はないといった不公平な内容だと、遺族間のトラブルが発生しやすくなります。
例えば、その遺言の内容が無効だという主張がなされることもあるでしょう。また、遺留分を侵害しているとして、遺留分侵害額請求がなされることもあります。
遺留分を侵害する遺贈を相続人以外の第三者に対してしてしまうと、その受遺者も相続トラブルに巻き込まれてしまうことになります。
こうした事態を防ぐためには、遺言書作成の際に、遺留分に留意したり、できる限り公平な内容になるようにすべきだといったアドバイスを行うべきです。
遺言書が見つからない
被相続人が遺言書を書き残したはずなのに、いざ相続となった時に遺言書が見つからないケースもあります。
この場合、遺言書が見つかるまで探し続けたために、相続手続きが停滞したり、遺言書の発見に至らず、相続人同士で遺産分割協議をするしかなくなることもあります。
また、遺産分割協議が終わってから、遺言書を発見してしまうと、それが原因で大きなトラブルに発展してしまうこともあります。
こうした事態を避けるためには、被相続人が遺言書を作成したら、必ず発見してもらえるようにしておくことが大切です。
そのために有効なのが次の2つの対策です。
- 公正証書遺言で作成する。
- 自筆証書遺言で作成し、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する。
公正証書遺言で作成した場合は、公証役場に原本が保管されているので、問い合わせれば正本や謄本を発行してもらうことができます。
自筆証書遺言書保管制度を利用した場合も、遺言書の原本が法務局に保管されるので、遺言書情報証明書を発行してもらうことができます。
被相続人が遺言書を作成する場合は、これらの制度の利用を勧めましょう。
遺産が不動産しかない
主な遺産が不動産のみというのは、一般的な家庭ではよくあることです。しかし、この不動産をどのように相続すべきかということが大きな問題になります。
不動産の相続方法は、次の4つです。
- 相続人の一人がすべて相続する(現物分割)。
- 相続人の一人が相続したうえで他の相続人に代償金を支払う(代償分割)。
- 不動産を売却したうえで売却代金を相続人で分け合う(換価分割)。
- 相続人の共有とする(共有分割)。
遺族間のトラブルになりにくい分割方法は、換価分割です。
ただ、相続人の中には、思い出の詰まった家や土地を手放したくないと考える方もいるでしょう。このような場合は話し合いがまとまらず、遺産分割協議が長引いてしまいます。
代償分割の場合は、不動産を相続する相続人がそれだけの財産を有していないと難しいです。
共有分割は、遺産分割を先送りしているだけで、解決にはなりません。むしろ、後々、共有物分割がさらに困難になりがちです。
相続人の一人がすべて相続すると、不公平感から、他の相続人が不満を持ちやすいでしょう。
このように遺産が不動産のみの場合は、相続人の間で大きなトラブルになりやすいことから、複数の相続人がいる場合は不公平感が出ないようにするにはどうすべきかよく検討することが大切です。
不動産の評価方法で争いになる
不動産の評価方法については、相続時はこの評価方法を採用しなさいといった明確なルールがあるわけではありません。
不動産の評価方法には様々な方法がありますが、主な評価方法は次の2つです。
- 時価による評価
- 相続税路線価又は倍率方式による評価
時価による評価とは、不動産業者が評価する場合の価格です。売却を検討している場合や相続税を考慮しなくて良い場合に用いられます。
時価による評価では、金額が高額になるため、代償分割で代償金を支払う立場の相続人としては採用したくない評価方法になります。
相続税路線価又は倍率方式による評価の場合は、時価よりも廉価になります。代償分割で代償金を支払う立場の相続人はこちらを採用したいと考えるのが普通でしょう。
一方、代償金を受け取る側の相続人は、金額が低くなるため、採用したがりません。
このような形で、どの評価方法を選択するのかをめぐって遺族間のトラブルが発生しやすくなります。こうした事態を避けるためには、できる限り不動産は現金化しておくというのも有効な対策です。
多額の相続税が発生する場合は、不動産による物納も可能ですが、それだと、現金で納税するよりも損することが多いです。
また、換価分割をするにしても、相続の際に有利な価額で売却できるとは限りません。不動産は生前に売却しておいた方が相続トラブルが発生しにくいものです。
相続人同士の仲が悪い
子どもたちの間で兄弟げんかが絶えないなど、相続人同士の仲が悪いケースでは、遺族間のトラブルが発生しやすくなります。
少しでも不公平な相続内容になると、それがきっかけで遺産を巡って対立が発生してしまうこともあります。
相続人同士の仲が悪い場合は、相続人間で不公平感が出ないようにするにはどうしたら良いのか、被相続人の生前からよく検討しておくことが大切です。
この際に特に検討すべきことが、相続人一人ひとりへの特別受益に当たる生前贈与がどの程度なのかということです。
特別受益がある場合は、それらの金額を持ち戻したうえで、現在の財産に加えて、不公平感の出ない相続分を計算しましょう。
介護の負担に偏りがある
特定の相続人のみが被相続人の介護をしている場合は、介護を担っていなかった相続人との間で、感情的な対立が生じがちです。
介護については、通常の介護については家族間の扶助義務の範囲内と判断されてしまい、介護を熱心に担った相続人の寄与分が考慮されないことも少なくありません。
しかし、それでは、介護を担った相続人が報われないため、一定の配慮をすべきでしょう。
被相続人が元気なうちに遺言書を作成する場合は、将来、介護で世話になる可能性の高い相続人の取り分を多めにしておくなどの配慮をするとよいでしょう。
一方で、通常の介護は寄与分として考慮しなくて良いとされているので、介護を担ったという理由だけで多額の遺産を相続させるのも考えものです。
相続時に遺族間のトラブルに発展してしまった場合は?

税理士としては、相続時に遺族間のトラブルが発生しないように、被相続人の生前にできる限りの対策を講じておくというのが理想的な対応策になります。
しかし、相続が発生してから、相続税が発生する事がわかり、税理士に相談してくる方も少なくありません。既に遺族間のトラブルが生じてしまっている状況で相談する方もいるでしょう。
そのような場合、税理士としてできることは限られてしまいます。
当事者同士で話し合いがまとまらないようでしたら、遺産分割調停の申立を行うように案内する必要があります。また、法的な紛争に発展している場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談するように案内すべきでしょう。
まとめ
相続時の遺族間のトラブルは、被相続人の生前に対策を講じておくことにより、防ぐことも可能です。
相続税が発生する可能性がある場合は、被相続人の方が生前に税理士に相談するケースも多いです。
そのような場合は、相続時に遺族間のトラブルに発展しないように、この記事で紹介した点を踏まえながら、対応策を講じるように案内してください。

税理士.ch 編集部
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