会計事務所が顧問先に対してアドバイスするために知っておきたい経営戦略について

やさしいビジネススクール 学長
株式会社やさしいビジネスラボ 代表取締役
中川 功一


会計事務所の皆様、日々の業務お疲れ様です!
顧問先の経営状況を数字で把握し、適切なアドバイスを提供することは、会計事務所にとって重要な役割です。しかし、顧問先の成長を真にサポートするためには、数字の分析だけでなく、経営戦略に関する深い理解が不可欠です。

本稿では、会計事務所が顧問先に対して、より実践的なアドバイスを提供するために知っておきたい経営戦略の基礎知識を、具体的な事例を交えながら解説します。

1. SWOT分析:自社の強み・弱みを客観的に把握する

SWOT分析は、戦略分析の基本となる手法で、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要素を分析し、企業の現状を客観的に把握するためのフレームワークです。クライアント先に対して、丁寧にSWOT分析をしてあげるだけでも、大変な助けになるでしょう。

**強み(Strengths):競合他社と比較して優れている点。独自の技術、ブランド力、顧客との関係性などが挙げられます。
**弱み(Weaknesses):競合他社と比較して劣っている点。資金不足、人材不足、設備老朽化などが挙げられます。
**機会(Opportunities):外部環境の変化によって生まれる有利な状況。市場の拡大、法規制の緩和、技術革新などが挙げられます。
**脅威(Threats):外部環境の変化によって生まれる不利な状況。競合他社の参入、景気後退、法規制の強化などが挙げられます。

ある地方の小規模な建設会社を例に考えてみましょう。

強み: 地域密着型の経営で、長年の信頼関係を築いている。小規模ならではのフットワークの軽さ。
弱み: 大手企業に比べて資金力、技術力が劣る。後継者不足。
機会: 近隣地域での再開発プロジェクトの増加。リフォーム需要の増加。
脅威: 大手建設会社の地方進出。資材価格の高騰。

このようなSWOT分析結果を先方と共有し、そこから一緒に、いかなる打ち手を描けるかを議論することに本質があります。例えば、地域密着型の強みを生かし、リフォーム需要に特化したサービスを展開したり、後継者問題を解決するために、従業員への経営承継を検討したりするなどを提案できるでしょう。クライアントさんとよくコミュニケーションをとるきっかけづくりにも、SWOT分析は役立つはずです。

2. 差別化戦略:独自の価値を提供し競争優位性を確立する

差別化戦略とは、競合他社との違いを明確にし、顧客にとって魅力的な独自の価値を提供することで、競争優位性を確立する戦略です。クライアント企業が、競合と比べて秀でているところ。だからこそお客様に選ばれるポイント。そうしたものを見つけ出したり、あるいは積極的に構築すること、これが経営戦略のもう1つの鍵です。

差別化の軸は、製品・サービス、価格、ブランド、顧客体験など多岐にわたります。

製品・サービスの差別化: 高品質、高機能、独自のデザインなど、他社にはない特長を持つ製品・サービスを提供します。
価格の差別化: 低価格戦略、高価格戦略など、価格帯を明確にし、ターゲット顧客に合わせた価格設定を行います。
ブランドの差別化: 独自のブランドイメージを確立し、顧客に特別な価値を提供します。
顧客体験の差別化: 顧客との接点を重視し、顧客満足度を高める独自の顧客体験を提供します。

あるカフェを例に考えてみましょう。

製品・サービスの差別化: オーガニック素材にこだわったコーヒー豆を使用し、健康志向の顧客をターゲットにする。
価格の差別化: 高級コーヒー豆を使用することで、他店よりも高価格帯に設定し、富裕層をターゲットにする。
ブランドの差別化: レトロな内装や、昔ながらの製法にこだわり、懐かしい雰囲気を提供する。
顧客体験の差別化: 常連客の名前を覚え、個別のニーズに合わせたサービスを提供し、顧客との親密な関係を築く。

会計事務所としては、やはりこうした分析結果をクライアントと共有して、そこから次なる策を考えるお手伝いを一緒にしてあげられれば、顧客との関係をより強く太くすることができるでしょう。
例えば、顧問先の強みを生かしたニッチな市場への参入を提案したり、既存顧客に付加価値の高いサービスを提供することで、顧客満足度を向上させる提案ができるはずです。

3. ブルーオーシャン戦略:競争のない新しい市場を創造する

もう1つ、経営戦略としてたいへん有用な考え方を紹介しましょう。ブルーオーシャン戦略と呼ばれるものです。名前からも推測がつくかもしれませんが、既存の市場(レッドオーシャン)ではなく、競争のない新しい市場(ブルーオーシャン)を創造することで、高収益を目指す戦略です。顧客のニーズを深く理解し、既存の製品・サービスとは異なる価値を提供することで、新たな市場を開拓します。

例として、従来の音楽業界では、CD販売が主流でしたが、AppleはiPodとiTunes Storeを組み合わせることで、デジタル音楽配信という新しい市場を創造しました。

会計事務所は、顧問先の業界トレンドや顧客ニーズの変化を分析していく中から、どんなブルーオーシャンが目指せるのか、その可能性を提案していくことで、クライアントの価値創造に貢献できるかもしれません。例えば、新たなターゲット顧客層へのアプローチ、既存の製品・サービスに新たな価値を付加することなどを提案することができます。

会計事務所が経営戦略アドバイスを行う際の注意点

ただし、これらの経営戦略的アドバイスを行っていく上では、いくつか注意すべきことがあります。第一は、顧問先の状況を深く理解しているかどうかです。業界、規模、経営状況、企業文化など、顧問先の状況を分からずに行う戦略提案は、逆に顧客との関係を損なうことになります。

第2には、必要に応じて専門家との連携をとることです。どうしても、マーケティング、営業、IT、法務などの支援は会計事務所としては弱くなりがちです。そうした分野の支援をクライアントが求めることも念頭に置いて、専門家と連携する体制を作っておくことが大切になります。

第3には、継続的なサポートです。経営戦略は、一度立案したら終わりではありません。定期的な見直しを行い、継続的にサポートすることが重要です。そうして継続的な関わり合いを結んでいく中から、顧客は貴事務所を信頼し、さらなる関係の発展が見込めるでしょう。

まとめ

本稿では、会計事務所が顧問先に対して、より実践的なアドバイスを提供するために知っておきたい経営戦略の基礎知識を、具体的な事例を交えながら解説しました。

会計事務所が経営戦略に関する知識を深め、顧問先の成長をサポートすることで、より信頼されるパートナーとなることができるでしょう。ぜひ、本稿を参考に、顧問先へのアドバイスの質を高めていただけたらと思います。

中川 功一

やさしいビジネススクール 学長
株式会社やさしいビジネスラボ 代表取締役

「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」を軸に、研修、講演、研究、メディア等で活動する。主著『行動経済学超入門』『13歳からのMBA』など。YouTube「中川先生のやさしいビジネス研究」は経営学者初にして最大のチャンネルとして、時事解説など毎週3本配信中。

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