制度改革が拓く税理士等専門家の新たな役割 ―介護事業支援の現場に広がるビジネス機会―<小濱道博先生の介護特化塾 vol.04>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.139(2025.5)に掲載予定となっております。


小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生

 令和6年度の介護報酬改定と、令和6年度補正予算に伴う補助金制度の拡充は、介護事業所に対して構造的な変革を強く促すものである。単独事業所による経営の限界が露呈するなかで、国はICT導入、業務改善、人材確保、外国人材の活用、さらには事業者グループの形成といった複合的な政策を打ち出した。これにより、事業所の制度対応にはかつてない専門性と実務力が求められるようになった。そしてこの流れは、税理士や社会保険労務士、経営コンサルタントといった専門家にとって、大きなビジネスチャンスとなり得る。

 最大の特徴は、補助金申請の前提として「第三者による支援」が明記された点にある。介護テクノロジー導入支援や訪問介護提供体制確保支援などの制度では、業務改善計画の策定や効果検証の実施、生産性向上委員会の運営が求められており、これを事業者が単独で担うには限界がある。特に、補助金の高率交付を受けるためには、ICT導入等による収支改善の効果と、その利益を職員処遇に還元する計画が必要となる。この過程では、財務数値の管理、改善効果の可視化、処遇改善との連動といった設計が必要となり、税理士の関与が制度的にも実務的にも重要となる。

 また、令和7年度にはケアプラン・データ連携システムの導入が在宅系事業者にとって事実上の義務となりつつある。導入しなければICT補助金が受給できず、報酬加算の機会も失われる可能性がある。この連携システム導入にあたっては、ICT機器の導入に伴う費用計上や減価償却、クラウド利用料の処理など、会計・税務上の対応が不可欠である。記録ソフト導入やクラウドサービス利用の増加に伴い、IT投資と経営改善のバランスを財務面から支援する税理士の役割は一層拡大している。

 加えて、訪問介護事業者への特別補助金対象には、登録ヘルパーの正規雇用化支援、人材定着に関する研修費用、採用広報費なども含まれており、ここでは社労士、税理士、コンサルタント等との連携も重要である。制度と補助金は複雑に絡み合っており、事業者が見落としやすい加算・支援策を丁寧に整理し、実行計画として提示する力が専門家には求められる。実際、ICTや業務改善、補助金活用、制度報告などをトータルで支援できる専門家に対しては、顧問契約にとどまらない「制度運用の伴走者」としてのニーズが高まりつつある。

 さらに、経営情報データベース(介護経営DB)への定期的な財務情報の提出も義務化され、会計帳簿の正確性や報告書作成の質が、制度上の評価にも直結する時代に入っている。従来の会計・税務支援にとどまらず、経営戦略・人材戦略・ICT戦略と一体化した総合的なサポートこそが、今後の専門家に求められる価値である。

 制度は変わる。その変化の中にこそ、新しい役割と機会が潜んでいる。介護業界の構造転換が進むいま、税理士や他の専門家が積極的に介入し、その知見を社会課題の解決に結びつける時代が到来していると言えよう。今、ここに介護特化専門士業の重要性が増した。そのための専門知識の習得が急務となっている。

小濱 道博

こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。

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