「ゲーム化」がもたらす売上10億円超への突破口
成功を生む実験場・さきがけ税理士法人の新戦略とは Vol.1

「ゲーム化」がもたらす売上10億円超への突破口 成功を生む実験場・さきがけ税理士法人の新戦略とは

さきがけ税理士法人 代表社員税理士 黒川 明

2008年1月の設立から16年。現在売上10億円超・従業員数110名超を誇り、自他共に認める多摩エリアトップクラスの税理士法人へと成長を果たしたのが、さきがけ税理士法人だ。売上、組織規模ともに成長の勢い止まぬ同法人。その躍進の秘密はどこにあるのか。さきがけ税理士法人の創設者であり、代表の黒川明先生に話を伺った。

値上げ交渉やクロスセルの提案も積極的に
顧問先を1割失うも売上は向上

以前、弊社で「営業仕組化実践塾」のセミナーを実施いただいた際(2017年9月)と比較しても、さらに大きく成長されています。前期で売上10億を達成し、今期は11億に迫るとのことですが、ここまでどのような取り組みを行われてきたのでしょうか。

顧客数という点では当時から大きく拡大していましたが、実はお客様あたりの単価は決して高くなかったのです。この2年ほどでお客様には数回、顧問料の値上げをお願いしました。
また提供サービスを増やすことによるクロスセルも強化。これらにより、2017年頃はお客様あたりの単価は大半が40万円ほどでしたが、現在は半数近くが100万円以上となっています。


クロスセルについては、どのようなサービスを増やしたのでしょうか。

税務会計部門以外にも、社会保険労務士部門や行政書士部門も「さきがけグループ」内に整備しました。ワンストップで、お客様企業において発生するあらゆる経営課題の解決をご支援できる体制を整えています。
お客様の「今」はもちろん、先々まで見据えた高付加価値な専門サービスの提案によっても、売上は大きく伸びたと感じています。
具体的には「社会保険労務士分野」や「財務部長代行サービス」「経理代行サービス」などをご提案しました。このうち「財務部長代行サービス」は、大企業におけるCFOのように、企業の資金調達面を強力にサポートするもの。まさに資金繰りに困っている中小企業が最も欲しているサポートを月額契約で提供することで、ご好評を賜っています。

顧問料の値上げを機に、離れてしまうお客様はいませんでしたか。

1割ほどのお客様は、値上げを機に離れていかれました。ただし単価も1割以上アップしているため、総合的な売上はむしろ向上しています。
そもそも近年のように市場環境が大きく動くなかでは、多くの企業で値上げは避けられないものです。そんな時代に「値上げすべき」と助言する立場の私たち税理士が、自分たちは値上げできないというのは、少し矛盾していると思いませんか。
値上げをすれば当然、解約も出るとわかっていました。ですが、それが1割なのか2割、3割になるのかは、ふたを開けてみないとわからない。それを実際に自分たちでやってみることで、お客様に値上げを奨める際に「うちの場合はこうでしたよ」とお話ができるようになりました。これは説得力が全然違うな、と実感しています。
当法人では、「自社は実験場」という考え方があります。成功するか、失敗するか。どの程度の数値になるのか。わからないことこそ、お客様より先回りして実験してみる。そんな理念・風土が、良い形で値上げの際も現れました。

その後、新たな顧問先開拓を続け、現在の顧問先は800社にものぼります。
最も太い顧客拡大のルートはご紹介とのことですが、紹介増加に向けて行われた施策などあったのでしょうか。

まず根底には、「目の前のお客様のために、いい仕事をしよう」という基本的かつ大事な考え方がありました。ですが、その上で想定以上に大きな効果を挙げてくれたのは「ゲーミフィケーションの導入」でしたね。
「ゲーミフィケーション」は、ゲーム設計の要素や思考法を、ゲーム以外の分野に応用するものです。例えば野球で考えてみましょう。
最近は大谷翔平選手の活躍で盛り上がっていますが、野球は「スコアを競うゲーム」ですよね。打者がピッチャーの投げた球を打って、塁を一周したら1点入る。すごくシンプルに表現するとそうなります。何をすればスコアになるかのルールを明確にして、共有し、競うのが「ゲーム」です。
「ゲーミフィケーション」は、こうしたゲームの考え方や特長を「ゲーム以外」、今回の場合は日々の業務に当てはめて活用することを指しています。


日々の業務の中でポイントを獲得できるルールを決めて、それをスコア表に反映して社内でスタッフ同士が競う、ということでしょうか。

その通りです。当法人の場合は、「何をしたら、お客様が喜んでくれるか」を基準にしてポイントが入るルールを設定しました。内容はお客様が喜んでくださることであれば、何でもOKです。
例えば、お客様からご紹介をいただくのはポイント対象です。なぜなら、お客様が満足してくれていなければ、ご紹介など生じませんからね。お客様が値上げに応じてくれるのも同様です。確定申告書を作るにも、早いほどお客様は喜びますから、30日決算と45日決算では前者の方が高ポイントなど、細かく設定しています。さらに、お客様から食事に誘われること、Googleの口コミを書いてもらうことなどもポイント対象です。


ゲーミフィケーションの積極的な活用が
スタッフのモチベーションを高め、成長を築く

ポイント獲得ができる項目は、どれくらいの種類があるのでしょう。

このシステムを導入して4年ほど経ちますが、どんどんポイント獲得項目は増えて、今では30項目ほどになりました。達成して得られるポイントも、数十ポイントのものから500ポイントのものまでさまざまです。それを毎日、たとえば「Aさんがご紹介のポイントを獲得し、現在〇ポイントで、1位。チームで見るとBチームが〇ポイントで1位」のように集計し、そのランキングを全社LINEで発表しています。この「すぐに集計して、すぐに結果が反映され、周知される」というのが肝です。翌日じゃ、遅い。その日のうちに、速報性を大事にして発表を行っています。こうすると、チーム内で「他のチームに勝つためにも、生命保険の契約を取るぞ」とか「あのお客様の値上げ、まだだったよね」と相談が始まるのです。ポイントを取るためにまだやれることはないか、という思考を全員ができるようになりました。
今では、新しく社内で推進したいことなどが出てきたら、ポイントの対象にしています。こうすると、物事が一気に進んでいくのです。

どのような経緯で、ゲーミフィケーションの導入が決まったのでしょうか。

テレビゲームなどでも、成長するとレベルが上がって呪文を覚える、といったことがありますよね。成長を可視化できるような仕組みを作ることができれば、もっと仕事を楽しんで、前向きに取り組めるのではと考えたのがきっかけです。
外部の専門家とも話してアプリ化なども検討したのですが、手間もかかるし、アプリ開発会社の方は人材育成のプロでもない。ならば、私が自分で手計算して電卓叩いて始めてみるか、というのがスタートラインでした。
最初のうちはスタッフたちも「忙しいのに、全社でやるの?」と懐疑的でしたが、続けるうちにゲーム性の面白さに惹かれて乗ってくるのがわかりましたね。


スコアの結果や成果は、どのようにスタッフたちに還元されるのでしょうか。

ポイント自体は、評価には直結させていません。毎日の途中経過&順位発表と、月1の全体会議でチームと個人の上位者が称えられるのみです。これは日本ゲーミフィケーション協会の方にも言われたのですが、士業でこのシステムを活用していることも、金一封などの対価がないのも珍しいということでした。
私の考えでは、報酬はその瞬間は嬉しくても、すぐに忘れてしまうものです。それよりも「名誉」や「賞賛」を感じることは、いつまでも覚えていると思いませんか。子どもの頃のラジオ体操と同じです。別にスタンプが貯まった結果もらえる50円の消しゴムなんて、どうでもよかったですよね。それよりも、「今日もスタンプを押してもらえた。自分はこんなにスタンプが貯まった」ということへの喜び。あれも名誉が嬉しい一例じゃないかな、と思っています。

こうしたゲーミフィケーションのシステムをうまく活用したことが、
貴法人の成長を支えているとお考えなのですね。

こんなに何年もゲーミフィケーションのシステムが続いて、上手に活用されている企業はあまりないそうです。ですが今日の成果を見れば、結果としてこの取り組みを突き詰めることが、紹介の増加や値上げ成功という成果を生んだのは確かですよね。今後は採用などの場面でも応用していければと考えています。

プロフィール
さきがけ税理士法人 代表社員税理士 黒川 明

さきがけグループ代表。税理士、社会保険労務士、行政書士、離婚コンサルタント、パワーリフター。1978年うまれ。北海道出身。4年留年し東京都立大学卒。趣味はドーミーインに泊まること、ベンチプレス。バツイチ独身。2008年に黒川税理士事務所(現さきがけグループ)を開業。スポーツではパワーリフティングにハマり2024年は南アフリカ開催の世界クラシックマスターズパワーリフティング選手権大会に120kg超級の日本代表として出場。さきがけグループはGPTW Japanから2024年12月「働きがいのある会社」の認定を受ける。

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