破産法人に対する金銭債権の貸倒れ<気になる税務トピックVol.31>
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.135(2025.1)に掲載されたものです。
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
破産法人に対する金銭債権の貸倒れ
国税庁ホームページの「質疑応答事例」が更新された。その中で、破産した法人に対する金銭債権の貸倒損失の計上時期に関して、破産手続き終結決定があった時とするとの解説が追加されている。現状の実務を追認している内容だ。
【回答要旨】では、「貴社は、A社の破産手続終結の決定があった日の属する事業年度において、A社に対する貸付金の額を貸倒れとして損金の額に算入することとなります。」としている。
もっとも実務では損失を早く計上して否認されても将来は損失計上できるのだから最終的な不利益はない。デフレが長く続いた状況ではむしろ損失計上を先送りした結果、破産法人に対する金銭債権について破産手続きが相当昔に終結しており、もはや更正の請求は出来ず損失計上の機会を失ってしまうことがあり得る。むしろこちらに気を付けるべきだろう。
矢崎総業が340億円の申告漏れ
自動車部品大手の矢崎総業は、子会社に赤字が発生しないよう、発注した製品の価格を期末に引き上げる調整をしたとして寄附金認定による更正処分を受けたとのことだ。国税局は、価格調整が契約書に基づいたものではなく合理性もないと判断した。同社は国税不服審判所に審査請求したとのこと。更正処分を受けているので現場での妥協的な処理はできなかったということだろう。
損益上の赤字を補填するための利益移転であれば寄付金課税になる。仮にコストの値上りに対応するための値上げであり予め契約に基づくものであれば問題なかっただろう。
免除予定の債務は相続税の計算上控除できない
相続により承継した債務のうち相続開始後に免除された部分については、相続税の計算上、「確実と認められるもの」と言えず控除できないと東京地裁は判断した(令和6年11月28日判決)。
この事案に関しては相続後の債務免除に対する一時所得課税について、東京高裁は令和6年1月25日、納税者の請求を認め相続後の免除益に対し一時所得を課すのは二重課税であると判断している。相続税の申告についての債務控除の可否についても別途裁判になっていたというわけだ。相続税の計算上に際してこの債務を「確実と認められるもの」として控除できるか否かが問題になった。
問題になった債務は、和解による債務免除条項により分割金が支払われた時には免除されることになっていた。相続開始時においては、分割金の残り100万円を支払うと免除されるという状況だった。
債務は存在するだけでは控除できず、確実と認められるもの(相法14①)でなければ控除できない。これに関して地裁は履行が確実と認められる債務を意味すると判断した。そうすると本件の債務は、相続後に、和解によって銀行から免除されることが予定されていたため、「確実と認められる債務」には当たらないことになる。 免除予定の債務についての債務控除不可と、相続後の免除益に対する所得税課税の二重課税の問題については今後の裁判に要注目だ。
白井 一馬
しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。