税理士が創る未来:SDGsへの貢献とその可能性
湊総合法律事務所 所長・弁護士
湊 信明
税理士が持つ専門性と社会的責任の重なり
税理士は、税務や会計の専門家として、企業や個人の活動を支える重要な存在です。しかしその役割は、それに留まるものではありません。税理士の仕事は、SDGs(持続可能な開発目標)達成のための社会的・経済的基盤を構築するうえでも、極めて重要な位置を占めています。
SDGsは、2030年までに貧困の撲滅や環境問題の解決、経済的格差の是正などを目指す国際的な行動計画です。その達成には、企業の責任ある経営だけでなく、税務・会計の透明性や公平性の確保が不可欠です。ここに、税理士が持つ専門性と社会的責任が重なります。
SDGsの意義:税理士が果たすべき役割の背景
SDGsは、17の目標と169の具体的なターゲットで構成されています。それらは「誰一人取り残さない」という理念のもと、社会の全セクターが協力して取り組むべき課題を示しています。例えば、目標1「貧困をなくそう」では、すべての人々が必要な資源やサービスを利用できる仕組みを作ることが求められています。この仕組みを支える要素として挙げられるのが、適切な税務制度であり、税理士の助言です。
税理士の活動がSDGsに直結する理由
税理士がSDGsに貢献できるのは、税務に留まらない幅広い活動が可能であるためです。その役割は、以下のようなSDGsの具体的な目標に直接関係します。
経済成長と起業支援(目標8:働きがいも経済成長も)
税理士は、中小企業の設立や運営を支援することで、地域経済の発展に寄与します。具体的には、資金繰りや税務処理のアドバイス、補助金活用の提案などを行い、以下のSDGsターゲットを実現に近づけます。
- ターゲット8.3:生産活動や適切な雇用創出、イノベーションを支援。
- ターゲット8.10:すべての人々の銀行取引や金融サービスへのアクセスを拡大。
貧困削減と所得格差の是正(目標1:貧困をなくそう/目標10:不平等をなくそう)
税理士は、低所得者層への税務サポートや社会保障制度の提案を通じて、経済的な困難に直面する人々を支援します。
- ターゲット1.4:すべての人々が基礎的サービスを利用できるように。
- ターゲット10.4:税制や社会保障を通じた平等の拡大。
持続可能な都市づくり(目標11:住み続けられるまちづくりを)
税理士は、住宅取得や資産運用における税制優遇のアドバイスを行うことで、住環境の改善に貢献できます。
- ターゲット11.1:すべての人々の適切で安全な住宅へのアクセスを確保。
透明性と信頼性の向上(目標16:平和と公正をすべての人に)
税理士は、公正な税務申告と会計管理を通じて、企業の透明性を高め、社会の信頼を築く役割を果たします。
- ターゲット16.5:あらゆる形態の汚職と贈収賄を大幅に削減。
税理士がSDGsに貢献するための具体的な行動
税理士がSDGsに具体的に貢献するには、以下の活動が有効です。
- 税務相談を通じた社会貢献
低所得者層や小規模事業者への税務支援を強化することで、彼らが経済活動をより効果的に進められるよう支援します。 - 中小企業への包括的支援
財務・税務のアドバイスに加え、事業承継や成長戦略の提案を行い、持続可能なビジネスモデルを構築します。 - 金融リテラシー向上のための教育
起業家や学生向けにセミナーや研修を実施し、金融や税務の知識を広めます。 - 企業のガバナンス強化
税務コンプライアンスの徹底と経営透明性の向上を通じて、投資家やステークホルダーの信頼を得る支援をします。
SDGs達成に向けたモチベーションの向上
税理士がSDGsに取り組むことは、社会貢献に留まらず、専門職としての価値を高める大きなチャンスです。税理士や事務所職員がこの目標を意識して行動すれば、以下のような効果が期待できます。
- 顧問先の満足度向上
持続可能性に配慮したアドバイスを提供することで、顧問先との信頼関係が強化されます。 - 業務範囲の拡大
税務に加えて、経営支援やSDGs対応の助言が可能になることで、新しい顧客層を開拓できます。 - 社会的意義の実感
自分の仕事が持続可能な社会の実現に直接貢献しているという実感が得られ、職業への誇りとモチベーションが高まります。
SDGsは税理士の新たな可能性を拓く
税理士は、持続可能な社会の創造における重要な担い手です。社会経済の健全な発展を支えるために、SDGsの理念を理解し、日々の業務に反映することが求められています。その先に、顧問先企業の成功があり、また自らの専門職としての新たな可能性が広がっていくでしょう。
湊 信明
湊総合法律事務所 所長・弁護士
(経歴)
2003年10月 湊総合法律事務所開設
2015年4月 東京弁護士会 副会長
2017年4月 中小企業法律支援センター 本部長代行
2020年4月 日本弁護士連合会 業務妨害対策委員会 委員長
2021年1月 東京弁護士会 中小企業法律支援センター SDGsプロジェクトチーム座長
(著書)
「成功へと導くヒューマンライツ経営」(日本経済新聞出版)
「勝利する企業法務」(第一法規)
「伸びる中堅・中小企業のためのCSR実践法」(第一法規)
「生前贈与の法務リスクと税務リスク」(大蔵財務協会)など