社内オペレーションのレジリエンス向上<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.14>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2022/7/15
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.105(2022.7)に掲載されたものです。
「脅威に柔軟に対応」するための
社内オペレーションのレジリエンス向上
さて、今回は「脅威に柔軟に対応」するための企業戦略について説明します。今後、パンデミック以外にも気候変動をはじめ、様々な危機的状況が訪れる可能性がありますので、経営者としてはレジリエンスな組織を作るための取り組みを進めておく必要があります。
レジリエンスというのは、「回復力」「弾性(しなやかさ)」を意味し、何かあってもすぐに回復できる状態のことを指します。
さて、企業が大きな変化を求められる状況ですぐに行動を変えるためには、前回お伝えしたシンプルなルールにより社員が柔軟な判断ができるような環境を作っておくことが有効です。そして、さらにその大きな変化を新たに組織に定着させる場合は、ルーティンの進化が必要です。
ルーティンとは、経営学では経営学者のシドニー・ウィンターによって、「繰り返し行われるが、状況の変化によって変わることがある行動のパターン」と定義されています。
また、経営学者のマーカス・ベッカーは複数の実証的な研究のレビューから、ルーティンの変化に対する重要な要素として、「繰り返しの頻度(the frequency of repetition)」、「一定のペースでの発生(the regularity of the frequency)」、「時間のプレッシャー(Time pressure)」の3つを示しています。すなわち、ルーティンを定着する際には、繰り返しの頻度を多く、かつ定期的な実施を行いながらも、いつまでに定着させなくてはいけない等の時間的なプレッシャーを与えない、ことが有効だと分かっています。逆に、ルーティンを進化させる際には、既存のルーティンの頻度や定期的な実施が緩和されるように促したうえで、新たなルーティンに移行させていくという工夫が有効です。新たなルーティンだけに目を向けていると、既存のルーティンからの脱却が進まず、組織の変化を妨げる要因になってしまう場合があるのです。
このように様々な実証研究から既に有効だと分かっている工夫を活用することで、シンプルなルールによって生み出した新たな行動を定着し、企業全体を生まれ変わらせることが出来るようになります。
さて、「中小・中堅企業のためのSDGs実践編」も今回で最終回です。色々な観点からSDGsの実践について説明してきましたが、最も重要なのは、SDGsに取り組むことによって、社会や組織や個人に変容が起きたかどうかです。社会を変容するのには長い時間がかかりますので、短期的には組織や個人の変容に注目する必要があります。今まで通りの経営の在り方で表面的にSDGsを掲げるのではなく、組織・個人の変容を促すことで、SDGsに真剣に取り組んでいる企業の断続的な成長が実現することが望まれます。本連載が少しでもそうした変容の後押しになることを願っています。