改正著作権法のポイントを解説(知って得する法律相談所 第28回)【最終回】

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2022/7/11

0.著作権法改正の流れ

インターネットが広く普及したことにより、いつでも電子書籍や映画・ドラマを視ることができ、大変便利なツールとなっています。
 
しかし、一部の無料サイト(海賊版サイト)などでは、無断で転載されたコンテンツが増加し、著作権を侵害する事例が相次いでいます。
 
具体的には、「漫画村」における被害が顕著で、被害額は約3,000億円と試算されています。
また、月間アクセス数も1億を超えていたようです。
そして、マンガ家や出版社の売り上げが大幅に減収するなど、莫大な被害が出ていました。
 
このような事態を是正するため、著作権法が改正されました(施行日:2020年10月1日)。
 
そこで今回のコラムでは、改正著作権法のポイントや個人・企業が気をつけることなどをわかりやすく解説します。

1.著作権法改正のポイント

令和2年6月5日に「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同月12日に公布されました(令和2年度改正)。

この改正法のポイントは主に3つあります。

①インターネット上の海賊版対策の強化
②著作物の円滑な利用を図るための措置
③著作権の適切な保護を図るための措置

この3つのポイントについて、解説していきます。

2.インターネット上の海賊版対策の強化

海賊版サイトによる被害は、上述したように甚大な被害を及ぼしていることから、下記2点の対策が強化されました。
 
2-1.リーチサイト対策
リーチサイトとは、「公衆を侵害コンテンツに殊更に誘導するもの」、「主として公衆による侵害コンテンツの利用のために用いられるもの」をいいます(著作権法第113条2項1号イ、ロ)。
 
具体的には、違法にアップロードされたコンテンツへのリンクが集約されているサイトです(リーチアプリもある)。
 
このサイトへの対策として、下記の規制が行われ、罰則が強化されています。



2-2.侵害コンテンツのダウンロード違法化
次に、違法ダウンロードの対象の範囲について、「音楽・映像」から「著作物全般」に拡大・強化されました。
 
ダウンロードは、「正規版が有償で提供されている著作物」であり「反復・継続してダウンロードを行う」に関するものを罰することになっています(2年以下の懲役・200万円以下の罰金)。
 
なお、国民の知る権利の観点から、①軽微なダウンロード、②二次創作・パロディ、③著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合には規制されません。

3.著作物の円滑利用

2つ目のポイントは、著作物の円滑利用を図るための措置です。
 
 3-1.権利制限規定の拡大
これまでは「写真撮影」「録音」「録画」への写り込みが規制の対象とされていましたが、今回の改正でスクリーンショットやライブ配信への写り込みも、規制外となりました(著作権法第30条の2)。
 
 3-2.行政手続に係る権利制限規定の整備
著作権法第42条2項では、「特許審査手続き」を定めており、特許などの審査が迅速・適格に行われるよう権利者の許諾なしで必要な文献などを複製することが認められています。
 
この点、今回の改正で、①地理的表示法(GI法)の地理的表示の登録(地名と食品などを合わせた名称:「神戸牛」「夕張メロン」など)、②種苗法の植物品種登録についても、権利者の許諾なしで文献などを複製することが認められました。
 
 3-3.利用許諾契約の対抗制度の導入
これまで、著作権者が他人に著作権を譲り渡した場合、利用許諾契約(ライセンス契約)を締結して著作物を利用している者(ライセンシー)は、譲受人に対して利用権を対抗できず、利用を継続できないという状況が発生していました。
 
しかし、令和2年度改正によって、ライセンシーが譲受人に対して対抗できるようになり、安心して利用を継続できるようになりました(著作権法第63条の2)。

4.著作物の適切な保護

最後に3つ目のポイントは、①著作権侵害訴訟の円滑な進行を図るための措置、②アクセスコントロール、③プログラムの著作物の登録制度が整えられました(令和3年1月1日施行)。
 
 4-1.訴訟における証拠収集手続の強化       
以前は、著作権侵害訴訟において、裁判所は被告に対して書類を提出するよう命令できますが、事前に書類を見ることができないため、提出命令の適切な判断ができないこと、また、書類が提出されても専門性が高い書類のため、十分に内容を理解することができない場合がありました。
 
そこで、今回の改正では、①書類提出命令の前に実際の書類を確認できるようになり、②書類を見て判断する際に専門委員のサポートが受けられるようになりました。
 
 4-2.アクセスコントロールの強化
アクセスコントロールとは、不正利用を防止するための保護技術のことで、現在ではシリアルコードを用いたライセンス認証が普及しています。
 
しかし、このライセンス認証をせず、コンテンツの不正利用が多発しました。
 
そこで、①ライセンス認証などの最新技術が保護対象に含まれることを明確化(定義規定の改正)、②不正なシリアルコードの提供に対する規制が行われました(著作権法第113条7項)。
 
 4-3.プログラムの著作物登録制度の設置
プログラムの著作物の登録は「一般財団法人ソフトウェア情報センター」が行っています(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律)。
 
このような指定登録機関や関係者からの要求により、①著作権者が保有する著作物と事前にプログラム登録していた著作物が同一であることの証明が請求できるようになりました。
 
また、②国や独立行政法人が登録をする場合の手数料免除規定が廃止されました。

5.まとめ

令和2年度改正は、海賊版サイトの規制強化を目的に行われたと評価することができます。
 
これにより、「漫画村」のような海賊版サイトが摘発・閉鎖され、運営者は逮捕されています。
今後、海賊版サイトやリーチサイトが摘発される事案が増加すると考えられます。
 
海賊版サイトを運営することは絶対に行わず、適正な方法でマンガや小説を閲覧しましょう。


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