社内資源の組み換えを行う<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.13>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2022/6/24

このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.104(2022.6)に掲載されたものです。

「危機感で企業を変化させる」ために、社内資源の組み換えを行う


さて、前回に引き続き「危機感で企業を変化させる」ための企業戦略について説明します。今回はSDGs視点による社内資源の組み換えに注目します。

気候変動やパンデミックのような文字通り地球規模の課題、またそれに伴い行われる世界レベルでのルール変更によって、既存の市場がある時点から急速に縮小し、並行して新しい市場が生まれていくことがあります。そうした際に、企業は迅速な意思決定による行動変容を求められますが、実際にはなかなか先行投資の判断が出来ず、ビジネスチャンスを見逃し、機会損失を生み出してしまう企業が多く存在します。

そうした機会損失を防ぐために必要とされる能力として、ダイナミック・ケイパビリティがあります。経営学者であるティースが提唱したダイナミック・ケイパビリティは、外部環境の変化への対応のために企業が内外の様々なリソースを組み合わせ変化し続ける能力のことを指しています。企業は現在の事業を行うために、色々なリソースを活用しています。それは、サプライチェーンで言えば、原材料の調達、生産、販売網、物流、アフターサービスと多岐に渡ります。製品・サービスという主要なアウトプットだけではなく、こうした全てのリソースが企業の強みを形作っています。したがって、市場環境を中心とした外部環境が変化し事業環境が悪化しても、こうしたリソースのうち、一部でも別の事業の立ち上げに有効活用すれば、十分に競争優位に立つことができるのです。

さて、こうしたダイナミック・ケイパビリティはどうすれば発揮できるのか? 経営学では、細かい行動を規定せずに、シンプルなルールのみを規定し、柔軟な活動・意思決定を受容できる組織にすることが有効であるとされています。

例えば、パーティション大手メーカーのコマニーは、これまで品質の高いパーティションを販売することに注力していました。しかし、地震や災害等の発生、新型コロナウイルス感染拡大等、様々な外部環境の変化により、人々が求めるオフィス環境の在り方が変わっていく中で、市場のニーズも変わっていきました。そこで、コマニーは「間づくりとは、すぐれた間の生成である」と自社のドメインを再定義し、柔軟に市場ニーズに対応した新事業創造を行えるよう変化しました。それにより、具体的には新型コロナウイルス感染拡大下におけるウェブ会議ニーズに対応した個室ブースの提供、室内・什器などに抗ウイルス・抗菌効果をもたらすコーティング剤の塗布サービス等、パーティションのことだけを考えていては実現することが出来なかったビジネスチャンスの獲得に成功しています。

外部環境が変わる中、自社のリソースをどう組み合わせれば、人々の役に立てるのか、そうした視点から検討し続けることに従業員が着手しやすい職場環境づくりが経営者に求められています。

次回は、最終回、「短期的な変化に対する社内オペレーションのレジリエンス向上」について説明します。

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