「上場企業との経営統合」という事務所成長の新たな方程式
相続コンサル領域でシナジー最大化を目指す税理士法人チェスターのこれから Vol.2

「上場企業との経営統合」という事務所成長の新たな方程式 相続コンサル領域でシナジー最大化を目指す税理士法人チェスターのこれから

税理士法人チェスター 代表社員 荒巻 善宏

2024年11月、相続に強みを持つ税理士法人チェスターを中核とするチェスターグループは、東証スタンダード市場に上場している株式会社青山財産ネットワークス(以下青山財産)との業務提携並びに経営統合を発表した。これにより、800名を超える従業員を抱えるグループとして、相続・財産分野における様々な課題解決を実現し、日本ナンバー1の総合ファームを目指すことになる。税理士法人チェスターの代表社員、荒巻善宏先生に経営統合にまつわる舞台裏と本音を聞いた。
【インタビュアー:株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広】

ツーブランドの架け橋としてすべきこと
上場企業が持つ重みとは

吉岡:発表後に青山財産ネットワークスの株が上がった、つまりそれだけ今回の話に市場は価値を感じたと読み取れるのですが、率直に荒巻先生はどう思われましたか

荒巻:まだスタートしていないので、株価に関してはなんとも言えませんが、やはりプレッシャーは感じます。税理士法人は自社の株式評価が公にならないのでわかりませんでしたが、上場会社だと日々数値が出るので、今までと違う感じはありますね。株価、つまり企業価値を上げるために何が必要なのか考えることは、経営者として必要な視座なのだと思います。この観点に関しては、私もがんばって成長しないといけないと考えています。

先日、取締役会があり、挨拶をする機会をいただいたので、私と福留(トーマツからの同期でチェスターの共同経営者)の役割として、チェスターグループとAZN(青山財産ネットワークス)グループの懸け橋になること、もう一つは、チェスターグループとAZNグループの企業価値を最大化させる動きをすることの2点をお伝えしました。

吉岡:チェスターに所属している社員の方々は、どのような反応だったのでしょうか。

荒巻:株のインサイダーの関係もあって、この話はリリース当日まで幹部のごく一部のメンバーしか知らず、税理士事務所のみんなに説明したのは本当に発表当日なのです。全員非常にびっくりしたと思いますし、それは想定していたので、きちんと説明をする必要があるということは認識していました。
一度の説明だけでは伝わらないと思ったので、当日の説明後に全員に向けて、「疑問や質問はなんでも聞いてほしい」と意見を募りました。それはもう、今までに見たことのないくらいの量のたくさんの意見が来ました。それなりに辛辣なものもあれば、「辞めてしまうのですか」「荒巻さんたちがいなくなったらどうしたらよいのですか」「買収されるなんてチェスターは業績がよくないのですか」「私たちは申告の代理作業屋みたいな感じで、コンサルは一切できなくなるのですか」など、本当に色々な見方が人それぞれあることがわかりました。

これらをいったん全部吸い上げたうえで、時間をかけてきちんと説明するしかないと覚悟を決めて、改めてもう一回説明会を開きました。この話は税理士法人チェスターにとってマイナスではなくプラスであること、コンサルがうまくいけば、事務所の利益体質も改善されみんなの給料も上がるし、申告以外の違うキャリアの形成もできること、相手は上場企業であって安心できる企業であること、すべてを丁寧に伝えました。この説明会で、一緒にコンサル系も頑張っていこうという雰囲気になったと思います。何より税理士法人チェスターの経営体制や資本体制が変わらないということが、税理士法人のメンバーからすると決定的な安心感につながったのだと思います。

また、上場企業の一員となるので、統合される4社に関しては、コンプライアンスを含めて、上場企業としての組織体制が求められます。それは今まで目をつぶってしまっていた部分でもあるので、きちんと制度として整えるよい機会になりました。その点でも、社員にとって安心感が高まっているのを感じます。

吉岡:従業員の方に、この統合でできるようになることや、めざす将来を共有されたわけですね。

荒巻:チェスターの社員にとっては、一緒になったけれど、今のところはツーブランドのままゆっくりと統合していくわけなのであまり変わらず、むしろ財産コンサルティング分野でサポートを受けらるようになったことで、お客様へのサービス提供の幅が広がる感覚を持ってくれていると思います。

今回は青山財産ネットワークスとの業務提携及び経営統合ですが、チェスターはチェスターでさらに進化していかなければなりません。当面は、AZNグループとチェスターグループのいわゆるツーブランドが走るという感じで進めていく予定です。
普通M&Aというと、統合されてワンブランドになるイメージがありますが、今回は双方のブランドによる集客力や組織力を活かしながら成長していく戦略となります。
両社にはそれぞれの強みがありますので、その強みを活かして仕事をしていくという内容は、ビジネスの深いところまで紐解かないとなかなか外部の方の理解は難しいと思います。
だからこそお取引先やお客様には丁寧に説明をしていく必要があります。そこを理解して頂ければ、今回の統合の真の価値が見えてくるはずです。そしてそうなっていくためには、私は両社の架け橋となる役割を果たす必要があると考えています。


吉岡:今の荒巻先生の立ち位置は、他の税理士にはないものだと思うのです。税理士事務所の代表社員と、大手上場企業の執行役員という2つの立ち位置を、どのようにバランスを取ってめざす将来像に向かっていきたいと考えていらっしゃいますか。

荒巻:私も初めて経験する立場なので不思議な感覚ではあります。
先ほど申し上げたように、チェスターの従業員にとっては、ツーブランドのままゆっくりと統合していくので大きな変化というものはあまりないと思いますが、やはり私としては、一従業員に近いくらいの立場で自分たちの役割を果たしていかないといけないので、とにかく共同で目指すビジョンの実現に向かって進んでいく、それだけですね。そのために私ができることは何でもやろうという覚悟はあります。
上場企業としての責任を果たしつつ、税理士事務所である程度数字を作っていかないと全体につながっていかないので、今まで以上に意識して数字を作る覚悟をしています。
チェスターだけの時は、代表だったのですべてを自分たちで決定して実行できました。でも今回、青山財産ネットワークス側に執行役員として入っているとはいえ、自由にできるわけではもちろんありません。
福留も同じ立場ですから、相談もしますし、似たような感情を抱いているのだと思います。一人ではないということはとても心強いです。一人だとしんどかったかもしれません。二人で始めたチェスターがここまで大きくなり、二人でまた再スタートを切る。自分と同じ視座で相談できる仲間がいるということのありがたさを実感しています。
上場企業の執行役員に新たに入るのは、もちろん大変ではありますが、新たに青山財産の事業部管理を受け持つというわけではなく、チェスター部門として、チェスターグループの従業員たちと一緒に数字を作っていくのが我々のミッションです。もちろん部門として管理される側に立つという点は今までの立ち位置とは異なりますが、やることは以前と変わりはありません。まずは結果を出して貢献できるように全力を尽くします。

一般企業化が持つ可能性
夢のある資格だからこそできるチャレンジを

吉岡:今回の統合によって、今後、力のある大手事務所が、一緒に仕事をしたい対象として上場企業から見られ、組織を大きくするために協働する選択をすることが増えていく道筋ができたのではないでしょうか。

荒巻:士業事務所が大きくなる方法としては、同業とのM&Aが一般的でしたから、確かに今までになかった形の成長パターンではありますね。上場企業グループが、税理士事務所グループと一緒になって仕事をしていくという形を示せたというのは、意義のあることだったと思います。他事務所にとっても参考にしていただけることもあるのではないでしょうか。

ただ、これは確信しているのですが、税理士事務所だけを経営していた場合、今回のような関係を結ぶことは難しかったと考えています。私たちは税理士法人チェスターを中核としつつ周辺領域のビジネスをしていたから、その周辺部分の株式だけ統合することができたという実情があるのです。生き残りをかけて税理士業務だけでなく、周辺領域のコンサル業務を展開しておけば、今回のような新しい取り組みかつ「出口」の可能性も広がることになります。「出口」というのは、統合のための株式取引にあたり株主である経営者が利益を得ることになるからです。

もしかすると人によってはそこで終わり、つまり「出口」と捉える経営者の方もいるかもしれません。もちろん私はまだまだ続けていきますが、結果的にチェスターグループの株式に一定以上の価値をつけていただいたことで、そういう評価がきちんと税理士事務所グループにもつくということは示せたのではないかなと感じています。

吉岡:税務会計だけではなく、それに派生する別事業を展開する一般企業化が、直接的な意味でも間接的な意味でも、事務所を大きくすることにつながっているわけですね。

荒巻:独自の取り組みや強みになるようなコンサルを行っている事務所は、こういうお声がけもあるということが会計業界の中でも広まっていると思います。税理士事務所の枠組みから外に出始めている先生も多くなってきているので、今後は自然に他業種との提携という流れができていくのではないでしょうか。税理士業界にも面白い先生たちはたくさんいますからね。この傾向が続いていくことは業界にとっても良いことだと思います。
我々も、税理士事務所だけを経営しようと思ってやっていたのではなく、相続に関する困りごとを解決するため、ビジネスを作ってきたという実感があります。それが一般企業化につながっていたのでしょうね。このような考え方の税理士事務所が増えていけば、相続に限らず、いろいろな道が開けると思います。

吉岡:20年後は、チェスターさんの例が会計業界でも珍しくなくなっているかもしれませんね。

荒巻:税務会計以外の事業で強みになっているものをどんどん伸ばしていった結果、自分で上場するケースだってあるでしょうし、我々のような提案を受け、組織としてもっとレベルの高いことができるようになるなど、そういう事務所がこれからたくさん生まれていくのかもしれませんね。
もちろん、職人は職人で大事だと思うので、職人の先生の事務所もあるけれども、こういう考え方をして、事務所やグループを大きくしていくような税理士がいても面白いと思います。

強みをさらに磨いていき、事業を立ち上げて、そこでさらに稼ぐということも、必ず起きてくるはずです。税理士だからこそできる、自分の資格の独占業務をこなしつつ同時に違う事業を派生させる、それができるという面でも、税理士は夢のある資格なのだと思います。ですから、志をもった若い人にはどんどん会計業界に参入してほしいですね。

吉岡:本日はとても貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール
税理士法人チェスター 代表社員 荒巻 善宏

2004年、同志社大学商学部卒業。同年、公認会計士第二次試験に合格し、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)に入所。07年、現在の母体となる株式会社チェスターを創立、代表取締役に就任。08年、トーマツの同期である福留正明氏と共に税理士法人チェスターの代表社員に就任。公認会計士、税理士、行政書士、ファイナンシャルプランナー。

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