そろそろ考えなければならないビジネスと人権
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.44>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.148(2026.2)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
「ビジネスと人権」という言葉を目にしたことはないでしょうか。企業が活動するためには、従業員、顧客、仕入れ先など多くのステークホルダーとの関係が生じます。このときに、自社の利益を追求するかぎりどうしても相手に負の影響を与えてしまうことがあります。社会があっての企業ですので社会全体の最適化を考えれば、相手の権利や利益に配慮することも求められますし、結局のところそれが自社の利益にもつながります。この当然の帰結が「ビジネスと人権」というテーマです。近江商人の「三方よし」の視点が近いかもしれませんね。
ビジネスと人権は、欧州が先行している取り組みですが、わが国でも加速しています。大企業から始まった取り組みですが、徐々にサプライチェーンを構成する中小企業にも波及し、また大企業と取引がない中小企業であっても、同規模の企業と労働条件を比較されるため人材確保にも影響が出ます。2026年現在、すべての企業にとってそろそろ考えなければならないテーマとなっています。
では、何をしなければならないのでしょうか。まず行うべきことは、自社の活動がステークホルダーに与える負の影響を把握することです。具体例としては以下のようなものが多くの企業で問題になり得ます。
1. 労働環境の問題(安全衛生・ハラスメント)
慢性的な長時間労働や、適切な安全対策の欠如・顧客からの不当な暴言(カスハラ)を放置し、従業員に忍耐を強いることは、生命・健康への権利を損なうことになります。
2. 取引先への不当な圧力
取適法が規制するような一方的な単価設定は、結果としてその取引先の従業員の賃金や安全対策費を削らせることになります。
3. 外国人労働者への差別的待遇
外国人実習生等に低賃金での労働を強いたり、移動の自由を制限したりする行為。これらは国際社会から「強制労働」と指弾され、取引停止を招く最大のリスクです。
4. 公害・産業廃棄物の不適切な処理
企業活動に伴い周辺環境が汚染され周辺住民の人権が侵害される事例も無視できません。廃棄物の処理等については責任をもって対応する必要があります。
そして、把握した人権リスクに対して、日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では以下の取り組みが求められています。
| 人権方針の策定 | 経営トップが「人権尊重」を企業の基本方針として内外に宣言すること。 |
|---|---|
| 負の影響の特定と評価 | 自社のビジネスが誰の人権を傷つける可能性があるか、優先順位をつけて棚卸しすること。 |
| 防止・軽減に向けた措置 | 特定したリスクに対し、具体的な改善策を講じること(例:契約書へのハラスメント条項の挿入、労働条件の再検討)。 |
| 救済メカニズムの構築 | 被害者が声を上げられる「苦情処理窓口」を設置し、実効性を持たせること。 |
ビジネスと人権においては最初から完璧であることは求められていません。ステークホルダーとの適切な対話を通じて妥協点を探り適切な関係性を構築することこそが重要です。2026年のビジネス界において、人権への配慮はコストではなく、企業の持続可能性を支える投資といえる局面に来ています。そろそろ考えてゆきましょう。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。

