情報流通プラットフォーム対処法で誹謗中傷はなくなるか?<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol. 36>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.140(2025.6)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
このコラムでも以前取り上げた情報流通プラットフォーム対処法が本年4月1日に施行されました。インターネット上での権利侵害が発生した際に、被害者が行使できる情報開示請求権とその手続き、情報を削除する場合のプロバイダの免責などを規定していたプロバイダ責任制限法を改正し、大規模なウェブサイトについては、権利救済のための体制構築を促進するための義務を課す法律です。
そして、この法律では、特別な義務が課されるウェブサイトの運営者(大規模特定電気通信役務提供者)は、具体的には総務大臣による指定に委ねられているところ、4月30日に指定(第1回)が発表され、実際に運用が始まりました。今回の指定で対象となったのは、YouTube、Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、LINEオープンチャット、LINE VOOM、Facebook、Instagram、Threads、TikTok、TikTok Lite、Xです。
指定された事業者には、削除対応の迅速化と透明化に関する措置が義務付けられます。ただし、これらのウェブサイトが指定前に行ってきた対応と、今回の法令上明確な義務として課された事項を比較しても、削除請求を行う側の視点としては、そこまで大きな変化はなさそうです。情報流通プラットフォーム対処法は、窓口を整備し手続きを明確化するためのものであり、削除義務の範囲を変更したりするものではないからです。一点大きな変更になりそうなのは、今回の指定で、削除請求に対して結果を14日以内に通知する義務が発生しました。これまでは、削除依頼をしても長期間返答がない、場合によっては削除する場合のみ返答する(削除しないときは返答しない)といった対応がなされていた例もあり、この点は一つ前進と言えるでしょう。
ただ、以前のコラムでも述べましたが、情報流通プラットフォーム対処法に一番期待されているのは、運営者や組織実態が不明もしくは非公開のウェブサイトへの対応です。大規模特定電気通信役務提供者に指定されると、運営者や代表者の届出義務が発生します。運営者が非公開のウェブサイトについては、削除や発信者情報開示請求の際に、裁判を提起しようとしても相手の特定が難しく、大きなハードルとなっているのですが、指定により届出がなされるようになれば裁判は容易になります。
総務省によれば、4月30日の指定は、あくまで第一弾の指定であり「現在、大規模特定電気通信役務提供者の指定を追加的に行うことも検討中」とのことで、追加の指定に向けて各ウェブサイトの利用者数の調査なども進められているようです。ぜひ、追加の指定を期待したいと思います。

中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。