「税理士がユニコーンを生む時代」へ!
スタートアップ支援を“伴走型”で改善する
グローブ税理士事務所の起点と戦略 Vol.1

グローブ税理士事務所 事務所代表/税理士
スタートアップアドバイザー/アクセラレーター 茅根 幸祐
スタートアップ支援に特化し、2024年8月に開業したグローブ税理士事務所。なかでも初期フェーズである「シード・アーリー期」支援に軸足を置く。その理由は、日本のスタートアップ支援環境への問題意識から。起業家に伴走し、事業の加速させる役割をも果たす、新たな税理士のあり方とは?事務所代表・茅根幸祐先生に、業界支援の課題や今後の展望について話を伺った。
国外から見たベンチャー躍進が放つ輝き
「成長を間近に見て、貢献したい」
そもそも税理士という職業に関心を持った経緯は、どのようなものだったのでしょうか。
学生時代に留学していたとき、海外から見た日本のベンチャー企業の姿がとても刺激的に映りました。ちょうどライブドアやサイバーエージェントといったIT企業が台頭していた、いわゆるITバブルの時代です。その勢いに触れ、「いつか自分も起業して、成長産業で働きたい」と考えるようになりました。
大学卒業後、まずはIT系のスタートアップに入社。経験を積んで起業しようと考えていたのですが、事業アイデアがなかなか浮かびません。模索する中で、「税理士として独立し、起業家を支援する」という道に出会いました。

きっかけは国税局に勤めていた祖父です。祖父は私に自分と同じ道を歩んでほしかったらしく、毎年国税局の採用案内パンフレットを送ってくれていたのですが、それを見て、国税局での勤務が税理士資格取得につながる道の一つであることを知りました。入局を喜び、独立のビジョンも応援してくれた祖父には、今でも感謝しています。
国税局では、さまざまな業務に携わったそうですね。
はじめは税務署の法人課税部門で、中小企業を対象に税務調査を担当しました。その後は、特官付きとして比較的大きな企業の調査も経験。さらに国税局では、資本金1億円以上の法人を対象とする調査にも携わりました。企業の規模によって会計処理や組織体制が大きく異なるので、さまざまな規模の調査に携われたことはいい経験になりましたね。
そのほか、税務大学校で若手職員の研修を担当したり、国税庁へ出向して国会対応に関わったり、調査以外の貴重な経験も積ませてもらいました。
国税局で12年勤務したのち、グローブ税理士事務所を独立開業します。
非常に珍しい「シード・アーリー期のスタートアップ特化型」を掲げていますが、このような指針に至った理由を教えてください。
やはり最初にお話しした、ITベンチャー躍進への憧れが出発点になっていると思います。生まれたばかりの企業が急成長していく、そのダイナミズムの中に、自分も身を置きたいという気持ちはずっと変わらなかったのです。
思いを形にするため、国税局勤務と並行して大学院に通い、スタートアップのエコシステムについて研究しました。米国ではシリコンバレーを中心に、世界規模で活躍するスタートアップが次々に生まれています。一方、日本ではこの30年で大きく飛躍した例はごくわずか。
その背景を探る中で私が注目したのが、「起業家を育てる仕組み=アクセラレーターの存在」でした。日本にはこの役割を果たす支援者がほとんどおらず、それが成長の壁になっているのではないか。だからこそ私は、その役割を担える存在になりたいと考えました。
米国と日本、スタートアップを取り巻く環境の違い
起業家を加速させる「アクセラレーター」とは?
スタートアップ業界についてもう少し詳しく説明をお願いします。
まず、エコシステムとはどのようなものでしょうか。
まず米国には、皆さんご存じのようにシリコンバレーという「ヒト・モノ・カネ」が集積する地域があります。この地で多くのスタートアップ企業を飛躍的な成長に導いたのが、スタートアップエコシステムです。

多くの起業家が集まり、それをエンジェル投資家やベンチャーキャピタルが資金面から支援。さらに、弁護士や公認会計士が専門分野をサポートすることで、スタートアップ企業は大きく成長していきます。そうして成長したスタートアップがM&Aなどで事業を売却、すなわちイグジットをする。そこで得た資金を起業家が新たなスタートアップに投資し、自らのノウハウをもとにアドバイスを行い、次の起業家を支援していく。この循環こそが、スタートアップエコシステムです。
起業家や投資家、専門家が連携しながら次の世代を育てる良いサイクルができているのですね。
エコシステムの中で、アクセラレーターはどのような役割を果たすのでしょうか。
アクセラレーターは、創業初期に特化してスタートアップの成長を支援する、いわば起業家のための学校のような存在です。3カ月や6カ月といった限られた期間に、30~50社のスタートアップが集まり、事業を集中的に磨き上げていきます。
期間中は、過去に起業を成功させた先輩たちが「メンター」として経営に関するあらゆる相談に乗ってくれます。また、節目ごとにエンジェル投資家やベンチャーキャピタルに向けたプレゼンの機会も設けられており、資金調達に向けた実践の場としても機能しています。
「短期間で成果を出す」という明確な目標が、事業のスピードアップにつながります。加えて、同じ環境で取り組むスタートアップの間には、自然と競争心や協業意識が生まれ、互いに刺激を与え合いながら成長していくのです。
アクセラレーターは事業の加速だけでなく、人的ネットワークや実践の場としても大きな価値を提供しているのですね。
一方、日本のスタートアップ支援には、どのような点に課題があると考えていますか。
日本でも大手企業のアクセラレーションプログラムは増えていますが、スペースや相談の機会があるだけで、どこに向かって進めばいいのかが見えにくいと感じることがあります。どんな成果を目指し、いつ何を支援してくれるのか。そうした道筋が見えないと、起業家としては動きようがなく、結局プログラムを活かしきれないまま終わってしまうこともあります。
また日本では、資金・ノウハウ・ネットワークが分断されており、米国のように一体化した支援体制が整っていないのが現状です。スタートアップに寄り添いながら、分野をまたいで一貫して支援する存在が、もっと必要だと感じています。
制度はあるものの、設計や運用が追いついていないのが実情ということでしょうか。
それだけではありません。たとえば米国のアクセラレーターからは、成果を出すスタートアップが次々と生まれ、それが評価となり、投資家も集まりやすくなる、といったポジティブな連鎖が生まれています。つまり、アクセラレーターとスタートアップが相互にブランド力を高めあっているのです。こうした信頼の積み上げがまだ十分ではない日本では、資金調達のハードルが依然として高止まりしています。
さらに日本の場合、構造的な課題もあります。少し前まで日本のスタートアップの出口戦略はIPOが中心で、M&Aは稀でした。結果として、イグジット経験のある起業家が少なく、次世代に知見や経験を伝える流れが生まれにくかったのです。ただ、それも今後M&Aの経験者が増えていけば、少しずつ良い循環ができ、日本独自のエコシステムも成熟していくはずです。
そうした課題意識が、スタートアップに特化した支援を志す原動力になったのですね。
私は税理士として、アクセラレーターのような役割を担えると考えています。創業初期のスタートアップに伴走し、事業拡大というゼロイチのフェーズに特化して支援する。それが当事務所の設立コンセプトです。
日本ではまだ、創業初期のリソースが不足している企業を専門的に支援する存在が少なく、起業家自身が何から何まで抱え込まなければならない。これは構造的な社会課題だと思っています。だからこそ、私のような知識と経験を持つ専門家が、起業家と同じ目線で現場に入り、課題解決に取り組む。そうした関わりが、日本におけるスタートアップエコシステムの確立にもつながっていくはずです。

日本の起業家のアイデアや情熱は、決して米国の起業家に劣っていません。むしろ、環境さえ整えばもっと成長できると確信しています。そんな彼らの背中を押す存在になれればと思っています。
プロフィール |
---|
グローブ税理士事務所 事務所代表/税理士 スタートアップアドバイザー/アクセラレーター 茅根 幸祐
1985年埼玉県生まれ。大学卒業後、IT系スタートアップで実務経験を積んだ後、東京国税局に入局。調査部での大企業調査を含む100件以上の税務調査、国税庁での国会対応に携わる。 国税局在職中に大学院へ進学。シリコンバレーのアクセラレーターについて研究し、スタートアップエコシステムに関する知見を深める。 2024年にこれまでの経験を活かしグローブ税理士事務所を創業。シードステージのスタートアップや創業初期のベンチャー企業に特化してサービスを提供している。ビジネスサイドの包括的なアドバイザリーと成長企業をバックオフィスから支える独自のアプローチで企業の成長に貢献する。 |