2025年5月から電気料金値上げ…原因を分析

2025年5月から、電気料金の値上げが予定されているのをご存じの方も多いと思います。
物価の上昇が続くなか、光熱費の負担は家計や企業にとって無視できない問題です。高いからと言って供給を拒むことのできない電気。いったいどうしてこんなに上がってしまったのでしょうか。
今回の記事では、電気料金の仕組みやこれまでの推移、そして今回の値上げの背景にある要因について整理し、税務に携わる皆様が顧客や社員に説明に活用できる知識を提供します。
目次
そもそも電気代とは?
電気料金は、単純に「使った分だけ支払う」仕組みではありません。実際には、いくつかの要素から構成されています。それぞれの要素がそれぞれに料金に影響を与えており、電気料金の上がった原因を追究すると、それは単純とは言い難いものです。
電気料金を構成する要素とは以下の通りです。
- 基本料金:契約しているアンペア数や電圧によって決まる定額の料金です。使用量に関係なく毎月発生し、企業の場合は高圧・特別高圧契約によってさらに料金体系が異なります。
- 電力料金単価:使用した電力量(kWh)に応じて支払う部分で、段階的な料金設定がされているのが一般的です。これは使えば使うほど、単価も上がる仕組みとなっています。その契約先の電気の使い方に応じてプランを選べて、契約しているプランによってそれぞれ違う単価が設定されています。
- 燃料費調整額:これも使用した電力量(kWh)に応じて支払う部分で、その時々の平均燃料価格により毎月変動する調整額です。平均燃料価格は貿易統計における原油価格や液化天然ガス価格などから算出されます。これら燃料はほぼすべてが輸入に頼っているため為替や国際情勢の影響を受けます。燃料費調整額は使用量が乗算されて電力料金に加算されたり減算されたりします。
「電気料金単価×使用量+(-)燃料費調整額」を「電力量料金」といいます。
- 再生可能エネルギー発電促進賦課金:電力会社は再生可能エネルギーの固定価格買取制度に基づき、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーによって発電された電気を一定期間、固定価格で買い取らねばなりません。これに要した費用を電気の利用者から広く賦課金という形で集めているものです。
上記の要素から算出される料金をすべて合計したものが我々に請求される電気料金なのです。
電力の自由化によって、利用者はさまざまな電力会社からプランを選べるようになりましたが、実質的な料金体系の構造は大きく変わっていません。競争が進んでも、燃料価格や政策による影響を回避することは難しいのが現状です。
電気代のこれまでの推移
日本の電気料金は、ここ10年で大きな変化を見せてきました。2011年の東日本大震災以降、多くの原子力発電所が停止し、代替として火力発電に大きく依存するようになりました。これにより、輸入燃料費が急増し、電気料金の上昇が始まりました。
2014年から2015年にかけては、原油価格の一時的な下落により電気料金も多少下がりましたが、その後再び上昇傾向に転じます。2019年頃までは比較的安定していたものの、2020年以降、新型コロナウイルスの影響でエネルギー需要が減少します。
しかしパンデミックが落ち着きを見せると需要が回復、LNGの価格は上昇をはじめ、ロシアのウクライナ侵攻による供給不安が反映し、2022年にはLNG価格の高騰などが起こりました。
この価格高騰を受け、政府は2023年から「電気・ガス価格激変緩和対策事業」として、料金の一部を補助する政策を開始しました。標準的な家庭では、月額で約1,800円程度の支援が行われ、負担軽減に一定の効果がありました。
また、再エネ賦課金も年々上昇しています。下のグラフは月に300kWhを消費する標準的な家庭の再エネ賦課金の推移を表したものです。

導入当初の2012年度は1kWhあたりの単価は0.22円で300kWh使用する標準的な家庭の月額は66円でした。その後上昇を続け2022年度には1,035円にまで上がります。2023年度に一時420円に下がったものの翌年度逆戻りし、さらに上がった1,047円になりました。
2025年度には1,194円前後になる見通しです。
家庭だけでなく、電力使用量の多い中小企業や製造業では、こうした負担の蓄積が収益に与える影響が無視できないものとなっています。
2025年5月からの値上げの概要
2025年5月以降、大手電力会社による電気料金の値上げが予定されています。実は値上げは3月分(4月検針)から始まっており4月、5月と段階的に上がっていき、最終的には標準的な家庭で、値上げ以前から月額500円から1,000円程度の増加になると見込まれています。
値上がりの原因の一つは政府による補助の縮小にあります。
2025年1月と2月使用分の電気料金は令和6年度「電気・ガス料金負担軽減支援事業補助金」によって、減額されていました。2025年1月・2月は、1kWhあたり「低圧2.5円」「高圧1.3円」の補助、2025年3月は補助額が半額となり「低圧1.3円」「高圧0.7円」の補助があったのです。
寒さが厳しくなる時期だけの補助だったので、気温や水温が上がるのにともない使用電力も減ることを見越せば、まだ許容できる範囲かもしれません。
また、前段のグラフのとおり2025年度から再エネ賦課金も増額予定です。2024年度は1kWhあたり3.49円でしたが、2025年度には3.98円前後に引き上げられる見通しなのです。この上昇は、太陽光発電を中心とした再エネの買い取り負担が増しているためで、使用量が多い事業者ほど影響が大きくなります。
さらに、今後導入が進む市場連動型の料金プランや容量市場制度など、電力の安定供給を維持するための仕組みも新たなコストとして料金に反映される可能性が高く、利用者側はこれまで以上に料金体系の複雑化に直面することになります。
電気代値上げの原因を追究してみた

では、今回の電気料金の値上げにはどのような背景があるのでしょうか。表面的には「補助金の終了」と「再エネ賦課金の増加」に見えますが、その裏には制度的・構造的な問題が潜んでいます。以下に主な原因を解説します。
電気・ガス料金負担軽減支援事業の補助終了(2025年4月検針まで)
「電気・ガス価格激変緩和対策事業」は、ウクライナ情勢などによる燃料価格の急騰を背景に、政府が電気・ガス料金の高騰を抑えるために導入した制度です。
資源エネルギー庁のページには、「物価高により厳しい状況にある生活者を支援するため、家庭の電力使用量の最も大きい時期である1月から3月の冬期の電気・ガス代を支援する・・」
とありますので、冬季限定の制度でした。よって4月になって暖かくなればこの補助金は終了することとなります。
1月~2月は1kWhあたり2.5円の値引きがおこなわれており、3月は1.3円の値引きが行われました。たとえば1月に400kWh使用した家庭の電気代は1000円程度抑えられていました。つけっぱなしのエアコン1台の1日分程度でしょうか。
この制度は2024年11月に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」として閣議決定されたものですが、最初から3月までであることはわかっていたものです。ただし、昨年は8月~10月にも実施されていましたので夏ももう一度あるかもしれません。
一見すると「元に戻る」だけのように思えますが、再エネ賦課金の増加や燃料費調整単価の上昇も重なるため、結果的には実質的な値上げになります。
電力多消費型の産業や医療・福祉施設などでは、経営に与える影響が大きく、関係者は対応に追われることになるでしょう。
燃料費調整額の動向と影響
燃料費調整額とは、電気を作るために必要な燃料(石炭・LNG・原油など)の価格変動を、電気料金に反映させる仕組みです。輸入燃料価格が上がれば調整額が上乗せされ、逆に下がれば引き下げられるという、変動制の料金項目です。
これが「今回の値上げの主要因なのでは」と想像する人も多いと思いますが、実はそうではありません。
むしろ、2024年後半から2025年初頭にかけて、原油価格やLNG価格が比較的安定していることもあり、燃料費調整額は一部地域で「マイナス(割引)」が適用されているケースもあります。
つまり、2025年5月時点の料金上昇は、燃料費調整の上昇によるものではなく、主に補助金の終了と再エネ賦課金の増加による「基礎料金部分」の上昇が中心です。ただし、今後の国際情勢や為替次第では、燃料費調整額が再び上昇に転じる可能性もあり、油断はできません。
このように、燃料費調整額は短期的には値上げの主因とはいえないものの、電気料金全体の変動を左右する重要なファクターであることに変わりはありません。
再生可能エネルギー発電促進賦課金の見直し
再生可能エネルギー発電促進賦課金は、固定価格買取制度(FIT)により電力会社が再エネ電力を高値で買い取る費用を、最終的に利用者が負担する仕組みです。再エネの普及とともにこの費用は膨らみ、前年度の3.48円/kWhから2025年度は3.98円/kWhへと引き上げられる予定です。
5月は1か月に300kWh使用した場合で計算すると再エネ賦課金は1,194円加算されることとなります。開始当初ほんのわずかだった再エネ賦課金がもはや政府の補助より大きくなっていることに驚かされます。
太陽光発電設備の急増により、買い取り総額は年々増加しています。加えて、FIT制度から市場連動型のFIP制度へと移行が進んでいますが、過去に契約された高額買い取り分の償還は引き続き残ります。
さらに、今後のエネルギー基本計画では再エネ比率の更なる拡大が掲げられており、家庭や事業者が負担する賦課金は中長期的に上昇傾向が続くと予測されています。このように、脱炭素社会を進めるための制度が、現時点では電気料金の負担増につながっているのが現状です。
市場価格の影響は
電力は「日本卸電力取引所(JEPX)」で取引されるため、需給バランスが崩れると市場価格が跳ね上がります。夏や冬のピーク需要時に価格が急騰するケースも珍しくなく、こうした状況下では市場連動型プランの利用者にとって大きな影響があります。
今後も燃料価格の高止まりや為替の不安定さが続く限り、電気料金の先行きは不透明なままです。
なお、市場価格の影響は契約内容によって異なります。大手電力会社の規制料金プランを利用している場合、市場価格の変動はすぐには料金に反映されませんが、燃料費調整額などを通じて時間差で影響を受けることがあります。
一方で、新電力会社の市場連動型プランを利用している場合は、日本卸電力取引所(JEPX)の価格変動が即時に電気料金へ反映されるため、価格高騰時には大きな負担増となるリスクがあります。
まとめ
2025年5月からの電気料金値上げは、単なる価格調整ではなく、制度変更と市場環境の変化が重なった結果です。補助金の終了と再エネ賦課金の増加が主要因となり、企業や家庭にとっては負担増となります。
しかし、補助金の停止や再エネ賦課金による値上げ幅をみると、エアコンを使用せずに済む季節なら節電に励めば何とか元が取れる程度ですが、真夏や真冬になるといまだかつて見たことのないような額に仰天するかもしれません。
税理士や会計士は、この背景を理解したうえで、顧問先に対してコスト構造の見直しや省エネ設備への投資など、中長期的な視点での経営支援が求められます。社会全体がエネルギー転換に向かうなか、専門家としての的確なアドバイスが重要です。

税理士.ch 編集部
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