コンプライアンス違反は“一発退場”
~厳格化する時代に会計事務所が取るべき対応とは~

現在、企業におけるコンプライアンスの重要性がこれまで以上に高まっています。特に会計事務所のように顧客の機密情報を扱う業種では、コンプライアンス研修がリスク軽減の要となっています。本記事では、会計事務所におけるコンプライアンス研修の必要性について、10年以上コンプライアンス研修を行ってきた、和田倉門法律事務所の野村彩先生にお話をうかがいました。

野村 彩

和田倉門法律事務所 弁護士
2007年から弁護士業務に従事し、企業法務・訴訟業務を中心的業務とする鳥飼総合事務所を経て、 同事務所より独立した和田倉門法律事務所にて業務を行う。株式会社GENDA(東グ) 社外取締役、 株式会社ACES (東京大学松尾研発AIスタートアップ企業)社外監査役、 株式会社アンドパッド 社外監査役、日本郵政グループ 内部通報制度 不服審査委員会 委員 (いずれも現任)。慶應義塾大学法学部卒業。立教大学法務研究科卒業。 弁護士、公認不正検査士(CFE)。

― なぜ現在、会計事務所にコンプライアンス研修が必要とされているのでしょうか。

まず、情報社会の進展とともに、不正行為が発覚しやすくなる一方で、その影響力が拡大していることが挙げられます。SNSの普及により、不適切な行為が一瞬で広く拡散し、組織の信頼が大きく揺らぐリスクが高まっています。さらに、罰則の強化と法規制の厳格化も進んでおり、法令遵守だけでなく、倫理観を重視した行動が求められる時代となっています。
特に会計事務所は、顧客の財務データや個人情報など、機密性の高い情報を取り扱います。これらの情報を適切に管理する責任があり、違反が発覚した場合、信用の失墜に直結するため、コンプライアンスの重要性は非常に高いと言えます。

― 最近のコンプライアンス研修の傾向について教えてください。

ここ数年、コンプライアンス研修の需要がさらに高まっています。その背景には、他社で発生した不祥事を契機に「自社でも同じようなリスクを抱えていないか」と見直す意識が高まっていることがあります。また、法律や規制の変更に対応する必要性も研修の頻度を増やす要因となっています。
企業規模にかかわらず、事前の研修によってリスクを未然に防ぐことが求められるようになりました。特に会計事務所では、従業員全体の意識向上を目的とした包括的な研修が一般的です。

― コンプライアンス研修では具体的にどのような内容を扱うのでしょうか。

研修内容は、総論と各論の2つに分けられます。

総論では、コンプライアンスの基本的な概念を理解することから始めます。例えば、法令遵守の意義だけでなく、倫理的責任や社会的な信頼を守る重要性についても触れます。また、「不正のトライアングル」や内部統制の役割といった基礎的な理論も説明します。
各論では、業界や企業の特性に応じた具体的なリスクについて深掘りします。会計事務所の場合、以下のようなトピックをいれることが望ましいと考えています。

  • 情報漏洩防止:顧客データや業務情報の適切な管理方法
  • 労務コンプライアンス:労働時間の管理やハラスメント防止策
  • 契約書の正しい取り扱い:取引先との契約内容の確認ポイント

特に需要があるのは「情報漏洩」に関する内容のイメージがありますね。

― 情報漏洩の具体例と対策について教えてください。

情報漏洩は意図的な行為と過失によるものに分けられます。
意図的な行為の例として、従業員が顧客情報を転職先に持ち出すケースが挙げられます。また、過失による漏洩としては、誤送信や紛失が典型的です。いずれの場合も、事前のルール設定と教育が重要です。
研修では、具体的な対策として、以下をお話しています。

  1. 不正競争防止法における「営業秘密」の意味
  2. 物理的、技術的、心理的な抑止
  3. 秘密保持契約(NDA)の重要性と限界

これらの対策を組み合わせることで、リスクを最小限に抑えることが可能です。

研修はどの階層に対して必要なのでしょうか。

全ての階層で必要ですが、それぞれの階層に応じた内容が求められます。ベースとしては、上記に挙げた情報漏洩の防止などはしっかりとお伝えさせていただいた上で、例えば、新入社員・職員向けには基本的な法令順守や契約書の読み方、社会人としてのルールとの向きあい方が中心になるかと思います。一方、管理職向けには労務管理や部門特有のリスク対策に重点を置きます。経営層向けには、企業全体のコンプライアンス方針の策定や、取締役会での意思決定に役立つ情報が求められる傾向があります。

― 会計士や税理士が直面する倫理的課題とはどのようなものが挙げられるでしょうか。

会計士や税理士は、法令順守だけでなく、高度な倫理観を持つ必要があります。例えば、顧客の要望に応じて不適切な処理を行うことは、粉飾決算や脱税につながるリスクがあります。また、業務における小さなミスが業界全体の信頼を損なう可能性もあります。
業界内では、法令違反ではなくても「品位を欠く行為」として懲戒処分を受ける場合があります。このようなリスクを回避するためには、日常的な研修や自己研鑽が不可欠です。

― 今後、デジタル化やリモートワークの普及による課題は何でしょうか。

リモートワークが普及することで、現場での直接的なチェックが難しくなる一方、不正行為が見えにくくなるリスクが指摘されています。例えば、デジタルデータの改ざんや偽造の検出が従来よりも難しくなる場合があります。
一方、AIやデータ分析技術を活用することで、不正の兆候を早期に発見する可能性も広がっています。これにより、調査効率が向上し、予防的な措置が取りやすくなります。しかし、技術だけでは不十分であり、人間の判断と組み合わせることが重要です。

― 最後に、会計事務所がコンプライアンスリスクを軽減するための取り組みについて教えてください。

法令の知識や倫理観を持つだけでなく、事務所全体で組織的な体制を整えることが重要です。特に、他社の不正事例や最新のコンプライアンス事例を定期的にアップデートし、研修を通じて全体の意識を高めることが求められます。コンプライアンスの世界は常に変化しています。新しいリスクや事例に対応するために、毎年内容を更新し、研修を続けることが必要です。これにより、顧客や社会からの信頼を守り続けることができるのではないでしょうか。

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