「管理部門の崩壊」を食い止めよ! 「経理労務DX」のトータルサービスに商機を見出したBricks&UKの戦略 Vol.2

株式会社Bricks&UK 取締役副社長 柴田 尚郎
税理士法人Bricks&UK 東京事務所 代表社員/税理士 室井 恵子
独自の生産管理システムを築き、成長を続けるBricks&UKグループ。最近では、経理・労務といった、企業の「管理部門」の業務を代行するサービスに力を入れているという。背景には、管理部門の人材が払底している企業側からの、切実なニーズがあった。代行サービスに商機を見出したBricks&UKの戦略に迫る!
ソフトがバラバラでも
顧客目線で柔軟に対応
先ほど、「お客様が使用している会計ソフトはそのまま引き継いで使う」とお話がありました。
どんなソフトにも対応されているのですか?
室井:お客様のほうで「記帳では『SMILE』を使ってほしい」とか「『マネーフォワード』で続けてほしい」というような要望があればできる限りお受けしています。ただ、こちらでソフトを選定してよい場合は、『弥生会計』を使用することが多いです。
かなり複雑な案件も御社に持ち込まれるのでしょうか?
室井:数字が整理されていない状態のまま引き継ぐこともあります。以前、不動産業の会計だったと思うのですが、取引が複雑で記帳の難易度が高いということで弊社にご相談いただいたことがありました。他の税理士事務所の方々からご依頼をいただくこともあります。「記帳のボリュームが多く社内で対応できない」ということで、他の税理士さんとタッグを組む機会も最近とても増えてきているのです。

ただどんなケースでも、やはり扱いやすいソフトとそうではないものがあります。それぞれで入力画面も操作方法も違うので、かなり細かい部分までマニュアルに落とし込まなければなりません。違うソフトでもどう効率化を図るかが腕の見せ所だと思っています。
労務系については、使うソフトを固定化しようとしているのですよね?
柴田:はい。電子申請をできる種類が一番多いソフトに固定化しようとしています。弊社の社労士たちが、「使いやすい」と感じているものです。ただ、最近、東京のとあるお客様から、別のソフトを使ってほしいという要望がありました。「社労士側として使いやすいのは分かるが、当社の人事部としてやりたいことには適していない」というのが理由でした。そういうことであれば、もちろん、柔軟に対応しますし、ソフト選びからご相談に乗っています。
フロント、ミドル、バックがタッグを組み
Bricks流サービスを提供
複雑な案件を受注してしまって、後々対応に苦慮するようなことはないのでしょうか?
室井:そうしたことが起こらないよう、お客様の要望を最初のヒアリングの段階で仕分けて、弊社で「対応可能」、「不可能」を判断することが重要になります。それをせずに安易に受注してしまうと、お客様の期待と結果が大きく乖離してしまいますので、その判断ができる人間が必要になってくるのです。経理代行も労務代行もそうですが、特に大型の案件を受ける際には幅広い知識を持った人間が対応する必要があります。

柴田:私は元銀行員ですので行員の用語で言うと、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスがあり、このうちフロントがお客様と直接的なやり取りを担います。このポジションの人間が、その後の工程を理解できていないといけません。 例えば、家庭用のエアコンを売るという話になった時に、私がエアコンについて少し勉強すれば売れるかもしれない。洗濯機と炊飯器を売るといったら、これも私が数日勉強したらお客様とお話ができるようになるでしょう。
しかし、業務用エアコンになったらどうでしょう。ビルのダクトや電圧の問題などが出てきますよね。そうすると、さらに専門的な知識が必要になります。営業マンの一夜漬けの勉強では太刀打ちできないので、それぞれの分野に精通した技術者が商談に同行することが必要になるのです。
弊社の場合も同じで、最初の営業の際にお客様とやりとりするフロントは、お客様の業務・事業規模に応じて、知識や経験の異なる人材やチームを割り当てています。
そこで失敗してしまうと、後の工程全てが失敗しかねないということですよね。
室井:そうです。弊社の部署でも、どこまでを自分たちが担当するのかという線引きはあります。ここからは経理代行、ここから先は記帳、あるいは税務だよね、労務だよねという感じです。どの部署の誰がそういう場に出ていくのが最適なのか、人材を見極めて選出しています。そのため、部署を超えてミーティングする機会が随分増えました。以前は、それぞれの部署ごとに固まってやっていましたが、大手のお客様も増えている今は、部署を超えて協力し合わないと回していけません。受注する前にミーティングし、見積りを出す段階でも集まり、お受けしてからも、どうすれば最も効率的な作業工程が組めるのかなど、常に連携を密にして話し合っています。そうして初めて、お客様のニーズやオーダーに応えることができるのです。部署間の垣根のない、弊社だからこそ築けた仕組みだと自負しています。
柴田:ミドル、バックの受け役をきちんと整備できないと採算割れになってしまいます。ですから、フロント、ミドル、バックという流れをきれいに設計する。Bricks流の「製販分離」に基づいた生産管理がきちんと機能するように部署間で綿密にコミュニケーションをとりながら作業を進めるのが重要なのだと思います。もっと言うと、分業を基本とするBricksの生産管理は独特なので、ここを理解している人間でないとフロントには立てない。新規で雇った営業マンに、いきなりフロント業務を割り当てても弊社の場合は上手くいかないでしょう。

「管理部門の崩壊」で
クライアントは大手にも拡大中
御社は、スタートアップの企業を相手にしているイメージが強かったのですが、これまでのお話を伺うと、経理代行や労務代行のサービスではむしろ大手企業との取引が増えてきているのでしょうか?
室井:中小企業のスタートアップ支援という軸は、今でも守っています。彼らの事業成長を助けたいという思いは常に持っています。ただ、代行サービスへのご依頼が、想定よりかなり増えてきている。そしてその部分は、仰るように、上場企業を含む大企業のクライアントも多くなっています。
士業部門は中小企業の案件が多く、代行サービスの方は上場企業など大きな案件が取れるという図式に見えますね。
柴田:それは、お客様側の動向がとても大きいと思っています。Bricks&UKグループの規模が大きくなり、それに伴って少しずつ知名度も上がっている。そうした影響で、ニーズの幅が広い、中堅大企業のお客様が確実に増えてきたと考えています。それともう一つ、これは繰り返しになりますが、特に中堅企業で管理部門の崩壊が著しかった。それが今、大企業にまで波及してきています。人が辞める、辞めても代わりが採れない、採れてもなかなか適応してくれない…。そういう悪循環が生まれており、大企業でさえ管理部門の崩壊を補填しきれなくなっているのです。そこに我々が柔軟に対応しようとしていることを、一部のお客様が評価し始めているのではないでしょうか。


プライシングの歪みが士業の弊害
柔軟な思考で新たな市場開拓目指す
大手のお客様が増えると、売上も伸びが大きいですか?
室井:スタートアップの企業に比べれば、お引き受けする業務範囲も業務量もかなり大きく、そこに厳格な納期も加わりますから1件当たりの単価は上がっていますね。
柴田:逆に言うと、そこに代行サービスのような新しいサービスを取り入れて刺激を加えない限り、プライシングを変えられないという感じはします。士業という枠組みだけで考えた場合の競争の激しさというか、価格の固定感はとても強い。完全にプライシングが歪んでいる気がしますし、まだまだ改善の余地があると思っています。
会計業界の常識から見ると、代行サービスを通じて大手のクライアントを得るというのはとても新しいパターンだと感じました。
最後に、これからの目標があれば教えてください。
室井:社内リソースの最適化は、引き続き進めていきたいですね。ひと月の中でも、月初に忙しい部署、月末に忙しい部署など繁忙期にばらつきがあります。弊社の生産管理システムでは、入力業務はパートの方たちに担って頂いています。その方たちに、各部署の繁忙期に応じて機動的に対応してもらうことで、効率化をさらに進めたいと考えています。
柴田:弊社は、とても頭の柔らかい人が多いので、刺激を与えてくださるお客様が来られると、皆、奮い立つのです。特殊なニーズを持った方とか、ビジネスの新たなテーマを与えてくださる方が来てくだされば、「頑張ろうぜ」と誰もが思う、そういう雰囲気の会社です。ですから、「労務顧問、労務代行はこうすべきであり、ここまでの範囲であるべきだ」と決めてかからずに、市場の動きを見極めながら、お客様から求められていることに迅速に、柔軟に、全力で当たっていきたいです。

貴重なお話、ありがとうございました。
プロフィール |
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株式会社Bricks&UK 取締役副社長 柴田 尚郎
慶應義塾大学経済学部卒業。 1985年、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。1992年よりニューヨーク、米国ファイナンスカンパニー(CIT)出向、航空機リース等担当。2001年よりみずほ証券にて、事業法人向けストラクチャードファイナンス従事。2011年みずほ銀行 投資銀行部門ディストリビューション部長。2013年、第三銀行出向。同行合併後2021年、三十三銀行 常務執行役員。2022年より(株)Bricks&UK 取締役副社長。グループ経営に参画しながら、人事代行・労務部門、M&A・融資コンサル部門等の運営、顧客開拓を推進している。 共著『アセット・ベースト・レンディング入門』金融財政事情研究会、 共著『アセット・ベースト・レンディングの理論と実務』金融財政事情研究会。 |
税理士法人Bricks&UK 事務所 代表社員/税理士 室井 恵子
慶應義塾大学経済学部卒業。 2004年公認会計士・税理士創栄共同事務所入社。2006年税理士登録し、2011年税理士室井恵子事務所として独立。朝日新聞社、日本経済新聞社、㈱日本ハウスHDなど大手主催のセミナー講師を歴任。2014年 税理士法人Bricks&UK代表社員就任後、東京事務所立上げに尽力し、多くのベンチャー企業や中小企業の事業経営支援を行う。現在では、東京事務所代表として各部門の運営を統括。税務部門では生産管理、品質管理の向上に注力しながら、グループ内の女性活躍の推進に向けた活動もしている。 現 東証スタンダード上場企業社外監査役、一般社団法人Bricks&UK 理事 |